サンフランシスコでは窃盗事件は住民20人あたり1件の割合で発生している。この発生率は全米17大都市の平均値の約2倍、ニューヨークの約5倍だ。窃盗事件が増加した背景には、前サンフランシスコ地区検事による司法改革があるともいわれる。「人権派」のチェサ・ブーディン前地区検事は訴追や収監についての改革を実行したが、結果として犯罪に対して甘い対応となり、「窃盗をしても収監されない」という事態を招いてしまった。保守派は治安悪化の要因はこの司法改革にあると指摘する。

 米国では西海岸を中心に集団で店舗に押し入り、あっという間に商品を盗み出す「スマッシュ・アンド・グラブ」と呼ばれる窃盗事件が頻発している。サンフランシスコでは、深夜の侵入盗を含めて、荒っぽい窃盗事件が多発している。繰り返し狙われる小規模小売店もあり、被害に遭わないようにするためのセキュリティー費用がかさんで店の経営を圧迫している。大小にかかわらず、店をたたむという判断は、治安が改善されない限り続くのである。

 こうした中、サンフランシスコに本社があるTwitterのイーロン・マスクCEOが5月、自身のアカウントに「サンフランシスコのダウンタウンでは多くの店が閉店し、世界が滅亡した後のような感じだ。こうしたことが世界に広がったら文明の終焉となるだろう」と投稿した。

 Twitterの本社は、撤退したWhole Foodsの旗艦店から歩いて5分ほどのところにある。イーロン・マスクCEOは2022年10月にTwitterを買収した後、多くの時間をサンフランシスコで過ごしており、町の荒廃ぶりを肌で感じている。サンフランシスコは、今をときめく億万長者が嘆くような町に変わってしまった。