◆友情と夢、やっかいな両方に不意打ちに
だからこそ、篠宮に罪悪感を一方的に明かしてしまうシーンは、胸がつぶれる思いだった。しかもその告白が、篠宮を傷つけることは紅葉にも分かっていたはずだ。それでも口から出てしまった、いや、あえて吐き出したのは、篠宮が画家として成功していたこと、そして黒崎と今でも友達として繋がっていたことの両方に不意打ちされたからだろう。
紅葉からは孤独への恐怖とともに、自信の無さが伝わってくる。高校時代、黒崎を呼ぶ篠宮を見かけたとき。あのときの紅葉には、2人が友達になって嬉しそうな顔と、自分が選ばれなかったと感じた寂しそうな顔、でも自分には「もっと目立つ友達がいる」という気持ち、いろんな表情が入り混じって見えたが、もし紅葉が自分に自信を持っていたら、篠宮と黒崎に声をかけて3人組になることだってできただろう。
イラストレーターとしての自分にも、紅葉が自信を持っていたなら、有名画家のシノさんからのコラボレーションのオファーを知って、いくらジャンルが違うとはいえ、もっと嬉しそうにして良かったはずだ。
篠宮のほうにも多少なりとも紅葉への優越感があったはず。高校時代、紅葉に話しかけられ、嬉しかったのは本当だろうが、それが人気者からの同情によるもの、どこか下に見ている気持ちがあるのだろうといった思いはあったのではないだろうか。でも、そうだとして、自分の絵を本気で褒め、あのブランコでの思い出のように、誰も見ていない場所で、わざわざ一緒に絵を描いた紅葉が、特別な存在だったのは間違いない。
でも、紅葉のイラストがいいと思ったからではなく、同級生だからという理由でのコラボは紅葉にとって屈辱以外の何物でもない。サプライズは篠宮が思う以上に紅葉にダメージを与えた。ブランコの絵を篠宮が塗りつぶすシーンは、思い出を上塗りされた思いと同時に、自分も紅葉を傷つけたことも含まれた苦しみの筆だったのではないだろうか。