『女帝』とは別に、カイロアメリカン大学に留学経験のある小説家・黒木亮によっても、卒業証書と卒業証明書の不備が指摘されていて、偽造ではないかとさえ疑われていたが、その時点で中島は知らなかったという。

 彼は小池に、「カイロ大学に証明してもらえばいい」と提案した。

 その後、中島は、小池が出馬宣言をした場合の想定問答集を作っていたそうだ。

 すると、9日、件の文章がカイロ大学学長のモハメド・オスマン・エルコシト署名入りの声明文が、駐日エジプト大使館のフェイスブックに載った。中島は、

「私はこんなに早くカイロ大学が対応してくれたの? と、驚きました。
私が『カイロ大学に証明して貰えばいい』と提案したのが、六日の夕方。七日の朝に小池さんから文面や宛先について問い合わせのメールが来たのですから、その時点ではカイロ大学とやり取りさえしていないはず。それなのに、九日には学長のサインのついた『声明文』が大使館のフェイスブックに掲載された。その間、わずか二日。通常、大学の公式声明なら、決裁の手続きもあるだろうし、エジプトとは時差もあるはずなのに……。
ただ、『やけに早いな』と思ったものの、当時は深くは考えませんでした。(中略)
この声明文の効果は絶大でした。新聞やテレビなど大手メディアが、一斉に『カイロ大学が声明を発表した』などと報じたからです。燃え広がっていた学歴詐称疑惑は、一気に沈静化しました。
私はこの時『大手メディアは、大使館のフェイスブックに載っただけで信じるんだ。大学ホームページを調べたり、アラビア語の原文はどう書いてあるかとか、学長への取材などもしないのだろうか。それで済むんだ』と正直、不思議に思いました」

 この国の単純すぎるメディアの反応に、呆れ、訝っているのである。これがこの国のメディア総体の力量である。

 中島は、こうした小池百合子都知事の早すぎる対応に違和感を感じていた。

 そんな時、ある人物に出会って衝撃的な事実を知るのだ。

「その人物、A氏は元ジャーナリストで表には出ていませんが、小池さんのブレーンの一人で、私とも旧知の間柄でした。A氏は私に言いました。『実は駐日エジプト大使館のフェイスブックに上げられたカイロ大学声明は、文案を小池さんに頼まれ、私が書いたんです』と。
私は小池さんが、私とA氏の両方にこの件を相談していたのだと初めて知りました。驚くと共に『やはりそうだったのか』と納得しました。そして、A氏は、更にこう言いました。
『声明文は、私が日本語で書いた文案を書き換えたものを英訳、カイロ大学の声明文として学長のサインをつけて発表したものです。時間が限られていたので、それしか方法はなかったんだと思います。当時は私も、彼女は卒業していると思っていたから原案を書いたし、気軽に『エジプト大使館のHPに載せればいい』などと助言しました。結果、エジプト政府も認めている形となり、メディアはこの問題を取り上げなくなった。今となっては忸怩たる思いです。このことは、どこかで明らかにするべきではないか、そう思ったりもしています』」