そしてもう一つのターニングポイントは舞台美術だ。僕はお笑い出身なので、どうしてもセットを簡素にしがちだ。それはお客様の想像力の邪魔をしたくないからという理由。なので5回公演まではどちらかと言えば抽象的な舞台セットにしていたのだが、6回目の公演の際、佐藤が具体的なセットを組んだ方がいいと言い出したのだ。
これに関して僕はかなり抵抗感があり何度も佐藤と喧嘩同然の会議をした。僕的には具体的なセットを組まれてしまうと、場所に制限が出来てしまい、話が狭まることを恐れていたのだ。しかし佐藤的にはそれでも具体的なセットがあった方が劇団の見栄えが変わり、お客さんの満足度も必ず上がると言っていた。それでも僕は悩んでいたのだが、最後は佐藤の「チームギンクラがもう一段上に上がる為です」という言葉に背中を押され、初めて具体的なセットを組み、芝居をした。
正直台本を作成するのはいつも以上に困難だったが、こちらも結果として大成功した。僕の中でいまだに第6回公演「最初で最後の真夏のララバイ」を越える作品が出来ていない。
このように佐藤が見ている未来は無謀と思えるものでも、必ず叶えられると思っている未来であり、彼女の中には何かしらの確証があるのだろう。大きなものから小さなものまで数々の課題をクリアしてきた彼女だが、クリアした後は必ず命が削られたかのような表情を浮かべ、少し放心状態になる。しかしその眼には次の課題が見えているかのように目の奥に何かしら燃えているのだ。
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