◆己の翼で飛びたい瀧山(古川雄大)と阿部正弘(瀧内公美)が出会う

男子の数が回復したことで、男が家督を相続して仕事をし、女は子どもを産み育てる役割へと世の中が急速に変化。しかしそこについていけない者もおり、兄が家督を相続したがらなかったことで、阿部正弘(瀧内公美)は阿部家の当主となる。

決して嫌々ではなく、むしろ兄とは逆に、正弘は外に出て仕事がしたいと思っていた。役職についているのは、すでにほぼ男性、残る女性は男性に敵意むき出しかつ将軍には媚びへつらうタイプ。もとより柔らかな三日月のような瞳が印象的な正弘は、周囲に敵を作ることこそなかったが、居心地の悪さに力を発揮できていなかった。

大奥(C)NHK
大奥(C)NHK
あるとき芳町に連れていかれた正弘は、陰間の瀧山(古川雄大)と出会う。「実は学者になりたいんです。ここを出たら、今度こそ己の翼で飛びたい」とまっすぐに語り、さらに「伊勢守さまは己の翼で飛んでなさるってことでござんすね」と言われる。

せっかくチャンスが巡って自分から飛び込んだというのに……。努力を続けながらチャンスももらえぬ人がいるのに、いま自分は飛べているだろうか?とズシリと来た正弘は、気合いを入れ直し、見事、久方ぶりの女性の老中へと昇進する。

ここでのやりとりに、自分が言われているかのように感じた人もいるのではないだろうか。世の中は理不尽なことばかりで「己の翼で飛ぶ」ことは、当然たやすくない。だけど、せっかくチャンスをもらい、もしくは自分でつかみ、飛べる場にいながら、正弘と同じように停滞している人がいて、もしも、もしも自分自身で良しとしていないならば、正弘のように兜を締め直すのもいいだろう。

フィクションの世界に生きる、時代も違う登場人物たちとの出会いが、自分の人生に直接響くこともあるのも、ドラマを見る楽しみのひとつだ。