■そいつ、いい人じゃないよ
第1話のレビューで、五感を差し出した雨ちゃん(永野芽郁)のキャラクターについて「錦糸町あたりでガルバにスカウトされて、何も考えずに付いていったらピンサロだったけどまあいいやと思って働いてそう」と書きました。彼女がなぜピンサロだったのに「まあいいや」と思って働いているかというと、まるで自分には最初からほかに選択肢がなかったかのように勘違いしているからです。
何か事情があってお金に詰まっていたのでしょう、雨の錦糸町でスカウトに声をかけられたとき、私にはもうピンサロで働く以外の道はなかったんだ。いつの間にかそう思い込まされて、現状に納得して生きているのです。現実を受け入れるのはしんどいけど、悩むのはもっとしんどいし、スカウトさんはとっても優しくていい人だし。わがまま言ったら嫌われちゃうし、どうせ私なんて誰からも必要とされていないし、人から愛される資格なんかないし。
普通、ドラマにおいてこういう女性が登場した場合、現状から救い出す方向に物語が展開していくのがパターンです。「そんなことないよ」「これは運命なんかじゃないよ」「よく考えろよ、おまえ騙されてるよ」「もっと自分を大切にしろよ」「愛してるんだよ」みたいなことを言ってくれる男が現れて、手を引いてくれるものです。
しかし、『君が心をくれたから』の雨ちゃんには、そんな男は現れません。最初から「五感を失う」以外の選択肢はなかったんだと思い込まされて、思い込まされたまま物語が進行していきます。雨ちゃんをそそのかした案内人たちも、五感と引き換えに命を救ってもらった太陽くん(山田裕貴)も、「希望」だとか「幸せ」だとか歯の浮くような美辞麗句を並べて、寄ってたかって泣いている雨ちゃんを安心だけさせようとします。