ハッピーエンド、だが……

 ごくシンプルに言えば、「仕事を辞めた中年主婦が、有能でクリエイティブすぎるあまり退屈な環境に病み、ふたたび自分の才能を活かせる仕事に就く話」だ。

 主婦バーナデットを演じるのは、『TAR/ター』に主演して世界中の映画祭で絶賛されたケイト・ブランシェット。『TAR/ター』では天才女性指揮者を演じたが、本作『バーナデット ママは行方不明』では、20年前に建築界からすっぱり足を洗った天才女性建築家を演じている。

 抑圧された、あるいは自分を見失っていた中年女性が「人生を取り戻す」展開は、正しく時流に乗っている。躁鬱を行き来するケイト・ブランシェットの独演会的芝居はまったく見飽きないし、スマートでハイブロウで少し毒のあるコメディタッチの会話劇も――日本ではあまり受けない洋画のいちジャンルではあるが――小気味良い。結末は綺麗なハッピーエンド。バーナデットはある自己実現を果たし、家族との絆はいっそう深まる。

 しかし、なぜだかスッキリしない。

 バーナデットの悩みが、今の日本人にとっては少々「贅沢」すぎるのだ。