文春は、無罪請負人の異名を持つ弘中惇一郎弁護士に訴状を見せて、感想を聞いている。
「通常、訴状には何が事実で、何が虚偽なのかを書くものですが、この訴状にはそれが一切書かれていない。(松本が)女性たちと性的関係に至ったのかどうかも説明しておらず、強い違和感を覚えます」
たしかに不思議なのは、訴状には、松本が個室で女性と2人きりになったのか、キスをしたのか、全裸になったのかといった性的行為に至るまでの細かな過程に関して言及がないのだ。
ということは、訴状から見えてくるのは、A子やB子と性的関係を持ったことは争わない。それを認めた上で、強制的ではなく、合意のうえでのことだと主張し、争うのであろう。
しかし、そうした同意の有無に関しても、この訴状にはいささか問題があると、弘中弁護士はいう。
「刑法でも昔は強姦罪と言っていたものが、二三年七月に不同意性交等罪に変わりました。現在の考え方は、脅したり暴力をふるったりしなくても、立場を利用して同意なく性行為を行えばそれだけでアウトです。
全体的に問題提起の仕方が古くて今の常識に反しており、昔の強姦罪的なイメージで訴状が作られている感じがします」
さらに損害賠償額についても、松本側はテレビ番組を休止したり、出演していたCMも中止になり、「筆舌に尽くし難い精神的損害を受けたのであるから、原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は5億円を下らない」としているが、弘中弁護士は、
「原告の経済的損害や休業損害を含めての五億円ならまだ理解できますが、純粋な慰謝料としてはあり得ない金額です。慰謝料というのは、殺人事件の遺族であっても三千万円から五千万円。桁を間違えているんじゃないでしょうか」
この注目の訴訟、リングに上がる前に、松本側がノックアウト寸前と、私は見た。
A子がこう話している。
「訴状を読み、松本さんが全く反省していないことが分かり、改めて“勇気を出して告発してよかった”と強く感じています。裁判所から要請があれば、松本さんから受けた性被害について、しっかりと証言したいと思います」
同様にB子もこういっている。
「私が文春に話したことは、嘘偽りのない事実です。あとはそれを第三者が客観的に見てどう思うか。裁判官なり、読者の方に判断していただければと思っています」
第一回口頭弁論の期日は、3月28日の午後2時30分からだそうだ。