■ニューカマーたちの飛躍
この年の『M-1』決勝メンバーが発表された当時は、こんなに盛り上がる大会になるとは見られていなかった。
3年連続準優勝の和牛がいない。初登場が7組と、知名度のあるコンビが少なく、本格派ではないイロモノも混じっている。どこか小粒感の漂うメンバーだと感じたことをよく覚えている。
さらに、この年は敗者復活も盛り上がった。東西のカリスマであり、長くファイナル進出を熱望されてきた天竺鼠と囲碁将棋が、ともにラストイヤーで散った。OLと大学生のアマチュアコンビだったラランドと2年目で「わかんねえなぁ」のシステム漫才を仕上げてきたくらげがインパクトを与え、人気先行型に見られていた超若手の四千頭身も地力を見せた。ミキ、カミナリ、トム・ブラウン、マヂカルラブリーというファイナル経験組もいたし、仕上がり切っていつ決勝に行ってもおかしくないと言われていた錦鯉と東京ホテイソンもいた。
決勝より敗者復活のほうがレベルが高いんじゃないか。そう感じながら見ていたことは白状しておかなければならない。
結果として、ファイナルの展開を作ったのは“小粒”だと感じていたニューカマー組だった。ニューヨークが初手でインパクトを与え、すゑひろがりずが一度空気をリセットし、ミルクボーイが爆発して、ぺこぱが美しいエピローグを描いた。
『M-1』後に関西で地盤を固めることを選んだミルクボーイと対照的に、この大会からぺこぱ、すゑひろがりず、ラランドが大きな飛躍を果たした。何組もの漫才師がこの年の『M-1』で「人生を変えた」のだ。