ヒトラーが現代に蘇ったらどうなるのか、というテーマを扱った映画「帰ってきたヒトラー」。世界中で話題になった作品でもあります。この記事では、映画「帰ってきたヒトラー」が気になる方に向けて、あらすじや原作小説との違いを解説します。映画を見た方も、これから見ようと思っている方も、ぜひチェックしてみてください。
映画『帰ってきたヒトラー』とは
映画「帰ってきたヒトラー」を見るにあたって、まずはこの映画がどのような作品なのか、その基本情報をチェックしておきましょう。作品の背景を知っておくことで、より映画を楽しめるようになります。
ティムール・ヴェルメシュのベストセラー小説を映画化
帰ってきたヒトラーは、ティムール・ウェルメシュというドイツの作家の書いたベストセラー小説を映画化したものです。
同小説は社会風刺的な作品であり、単行本は1,400万部以上、オーディーオブックも好評の売れ行きを記録しました。内容にはヒトラーのことを肯定的に綴っている箇所もあり、賛否を巻き起こしました。
しかし、ウェルメシュ曰く、ヒトラーの残虐な部分にのみクローズアップしてしまうと、その危険性を十分に表現できることができないとのこと。リアリティのあるヒトラー像に仕上げるために、あえて優れている面も描いているのだと言います。
ドイツのデヴィッド・ヴェンド監督作品
帰ってきたヒトラーを担当したデヴィッド・ヴェンド監督は、2011年に映画「Kriegerin」を制作し、ドイツ映画賞作品賞を受賞しています。この映画は、過激な右翼活動家をテーマにしたもので、監督は政治や経済を題材とした作品を得意としています。そのため、今作の監督に彼が選ばれることとなったのです。
原作小説では、ヒトラー視点で物語を進行させることによって、ヒトラーの内面をうまく描いていました。それにより、読者はヒトラーの勘違いに笑ったり、好感を抱きました。映画でもヒトラーの視点から描いていることに変わりはありませんが、映像だけで内面を描き切るのは難しいことです。
そこでデヴィッド・ヴェンド監督は、ヒトラー視点にこだわることなく、市民たちの視点も取り入れることにしたのです。映画の中でヒトラーを演じたオリヴァー・マスッチに、実際の街中を出歩いてもらうことで、リアルな市民の反応を映し出しました。
映画では通行人にモザイクをかけてあるシーンがありますが、それはこうした事情からです。中には暴言を吐く人もいますが、ほとんどの人は好感的に話しかけてきて、写真を撮ったり笑いながら話しかけてきたりします。そんな人々の姿を見て、オリヴァー・マスッチはこう語ります。
「いかに彼らが歴史に学んでいないか、騙されやすいかが分かった。」まさに、監督の狙いはここにあったのです。ヒトラーのことを漠然と悪魔的存在だと考えていたけれど、いざ彼が現れると今の政治への不満を聞いてくれるかもしれない、期待に応えてくれるかもしれない…そのような心理が市民たちに働いていたことは明らかです。
政治の不満を語る人たちには、まるで本物のヒトラーに話しかけているような様子も見られました。これこそが、「ナチスが台頭した当時」と同じ群集心理であり、ヒトラーを選んだ民衆の責任を如実に映し出しているのです。