◆和宮の空洞を、母の愛とは違う愛が満たし始めた
さて、そんな和宮の前に座って、しっかりと彼女を見つめたのは家茂だった。もっとも印象的だったのが、1対1で正面から相手と向き合い話した、褥での囲碁の場面である。「宮さまが江戸に来てくれたおかげで、なんとか公武合体の体裁を保てている。大事な、かけがえのないお人」と言う家茂に、和宮は江戸に来た本当の理由を明かした。
「本物の和宮さんな、ほんまは今も生きてはるんよ。わたしはただ、母を独り占めしたくてここに来たんや」と。そして身の上と、江戸に来た“しょうもない企み”を語った和宮に、家茂は泣きながら「その“しょうもない企み”のおかげで、(本物の)和宮さまは亡くならずにすんでいる。わたしは人を死の淵に追いやらずにすんだのです。宮さまは知らぬうちに多くの者を救ってらっしゃるんですよ」と。
「そんな風に考えるん、上さんくらいやで」と返しながら、さらに家茂の言葉に、道中を思い返す和宮。そして家茂は、世の人にとり「戦を避けるために江戸へ下ってくださる勇気ある宮さま、これが光でなくてなんでしょう」と言い、和宮を“世の光”と称した。「あんたは」と涙を隠す和宮。
“家の光”となれず、影の存在だった彼女が、“世の光”と言われた嬉しさ。しかしそうして家茂が世界を、視界を開いてくれたこと、何より彼女をまっすぐに見つめてくれたことこそが、響いたはずだ。和宮の空洞を、このまま母の愛は埋めてくれないかもしれない。でも、違った愛が満たし始めたことを、和宮は感じているはず。その変化は、周囲にも波及するだろう。ちなみに天璋院の猫に続き、囲碁に関しても、実際の和宮と家茂もともに好きだったという。
さて、政治では一橋慶喜(大東駿介)が表舞台に登場し、家茂が孝明帝(茂山逸平)のもとへと上洛しなければならなくなった。人をまっすぐに信じる家茂は、すべてをいい方向へ行って欲しいと考えているが、そう事が上手く進むとも思えず……。難題山積みの中、ついに残すところあと2回である。
<文/望月ふみ>
【望月ふみ】
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi