あとは独壇場だった。矢野・兵動が何を言っても大爆笑が返るというトランス状態に陥り、小さな劇場が上下左右に揺れた。笑い声が両耳から流れ込んでくる。客席のあちこちで火花が散っている。頭が痛い。これが漫才か、これが漫才か、客席の最後列で、私はそう繰り返していた。

 一昨年、『お笑い実力刃』(テレビ朝日系)に矢野・兵動がゲスト出演した際、アンタッチャブルの山崎弘也がライブで矢野・兵動との共演した際のエピソードとして「人ってこんなに笑うんだ」と圧倒されたという話をしていた。おそらく、同じ舞台を見たのだと思う。アンタッチャブルも、あの日の「バカ爆走」に出演していたはずだ。

 矢野・兵動はあの日からずっと漫才をしている。私はずっと漫才を見ている。どこまでも楽しい矢野・兵動の漫才を見ながら、追憶は穏やかに霧散していった。

(文=新越谷ノリヲ)