空っぽの舞台にマイク1本。スタッフが誘導をミスしたのだろう。矢野・兵動とやらは、いつまでたっても出てこなかった。50秒どころではない。1分、2分、観客がざわつき始める。まだ出てこない。堂々と雑談を始める女性客もいる。
そんな中、もう誰も待っていない舞台に、矢野と兵動がのそのそと現れた。特に悪びれる様子もない。軽くあいさつをすると、おもむろに漫才を始める。
雑談こそ収まるものの、観客は明らかに集中力を欠いている。それでも、舞台の上から大声で話をされれば、目線はそちらに集まっていく。30秒か、40秒くらいたったころだった。
「なんや、おまえ~!」
兵動が、矢野の着ていたトレーナーに描かれたキャラクターをつまみ上げた。たぶん、ネズミか何かだったと思う。その瞬間、客席が爆ぜた。なぜあれがあんなにウケたのか、全然わからない。当時もわからかなかったし、今となってもわからない。だが、矢野・兵動は確かにその瞬間、約100人の観客を手中にしてしまった。
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