寝っ転がってそのなんでもない光景を眺めながら、背筋が熱くなるのを感じた。見たことがある、この光景を、私は見たことがあった。

 おそらく1999年か2000年の出来事だ。場所は新宿Fu-、プロダクション人力舎の事務所ライブ「バカ爆走」。1~2年目の若手から始まり、10回勝ち抜きで「バカ爆走」レギュラー入りを獲得できる「ワイルドカード」を挟んで、ドランクドラゴン、おぎやはぎ、アンタッチャブル、アンジャッシュなど事務所トップの芸人が出てくる。その後、ゲストとしてインスタントジョンソンや海砂利水魚(現・くりぃむしちゅー)や土田晃之のU-turn、X-GUNあたりが出てくるという香盤だった。ゲストにはラーメンズやアメリカザリガニが来ていたこともあった。

 そのゲストコーナーにある日、矢野・兵動が呼ばれた。上方漫才大賞を受賞する10年前、関東ではまだファンの中でも顔と名前が一致する者は少なかったように記憶している。キャパ80人ほどの劇場は『ボキャブラ天国』(フジテレビ系)による若手芸人ブームで超満員だが、矢野・兵動を待っていた客は皆無だったはずだ。

 ともあれ、出囃子が鳴る。「矢野・兵動~!」影マイクの怒鳴りがあって、真っ暗な舞台が明転する。中央にはお飾りのマイクが立っている。狭い新宿Fu-では、全員が地声だ。