◆似ているようで違う、深愛とちふゆの“純粋さ”

 深愛の純粋さとちふゆの純粋さは、似ているようで違うところが興味深い。深愛は視点が遠いのだ。彼女の夢は、不倫相手の那須川と一緒になることだが、その遠い目標のために、今、彼と妻のふみこが少しでも楽になれるよう腐心している。さまざまな嘘をついてはいるが、表面的には彼女は「いい人」であり、誰も傷つけたくない、誰かを救いたいと願っているのだ。

『泥濘の食卓』
 ところがちふゆは違う。彼女は今すぐ、ハルキがほしい。ハルキが自分に関心を示そうとしないことが耐えられず、自分の部屋で奇声をあげて苛立ちを爆発させる。悪口雑言をまき散らかしながら、自分の苛立ちを背負いきれない若い心を、原菜乃華が見事に演じている。彼女が自分の得になることを知ったときの目のきらめき、ニヤリと微笑む顔がなんとも怖い。