◆「普通のルートから外れる」ことを恐れる役柄

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 稲垣吾郎演じる検事・寺井啓喜の悩みは、小学生の息子が不登校になっていること。しかも、同じく不登校であるインフルエンサーの動画に触発され、自分も動画投稿をしてみたいと相談を持ちかけてくるのだ。

 息子の動画配信を、彼は断固として反対するわけではない。一応は息子や妻の気持ちを尊重して、無理に学校に行けとは言わず、ひとまずやりたいようにやらせている。

 その一方では、内心では息子に早く学校に通えるようになってほしいとも願っている。その親心は多くの人が共感しやすいものだろうし、なるほど彼は極めて普通の人だと思えるだろう。

 だが、彼が検事という人を裁く仕事に就いていることもあってか、その「普通を至善とする」価値観はやがて危ういものにも見えてくる。

 原作小説に「様々な犯罪加害者を見てきた経験から、社会のルートから一度外れた人間の転落の速さを知っており、もどかしい気持ちを抱いていた」という記述もあるように、彼は幼い息子がYouTuberを目指して「普通のルートから外れる」ことを恐れている、いや確実に嫌悪感をつのらせているとも言えるのだ。