◆「観る前の自分には戻れない」は本当だった

©2021 朝井リョウ/新潮社  ©2023「正欲」製作委員会
 結論から申し上げれば、映画『正欲』は「観る前の自分には戻れない」というキャッチコピーが伊達ではない衝撃作だった。特に、後述する理由で、安易に「多様性」という言葉を使えなくなる人は多いのではないか。

 5人の主要キャラクターの思惑が交差する群像劇でもあり、新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香それぞれが「この人は本当にこの世にいる」と思えるほど、実在感のあるキャラクターに扮していることも見逃せない。

 そして、ここでは稲垣吾郎を推したい。稲垣吾郎その人の「らしさ」も最大限に活かした、「普通の人だからこそ共感する上に、良い意味での恐怖も覚える」キャラクターを完璧に演じ切っていたからだ。作品の特徴と合わせて、その理由を記していこう。