親族でも成年後見人になれるとは限らない

成年後見制度には「任意後見制度」と「法定後見制度」があるが、認知症が進んでしまってからは、「任意後見制度」を選ぶことはできない。後見される本人が任意後見契約を十分理解できないと考えられるためだ。「法定後見制度」では、親族や市町村長等が家庭裁判所に申請を行い、家庭裁判所が後見人を選定することになる。

申請者は成年後見人の候補を挙げることはできるが、親族を候補として希望しても、最近は親族以外が選ばれるケースが非常に増えている。裁判所が公表する平成28年の成年後見人の内訳をみると、親族が後見人に選ばれたケースは全体の28.1%にとどまり、それ以外は弁護士や司法書士といった第3者が選ばれていた。そして、決定について親族が異議申し立てを行えるような制度は設けられていない(指名された成年後見人が不正な行為を行ったり、或いは病気になって任務を果たせなくなったりするなどといった、正当な理由がある場合は認められることもある)。

本人の認知能力の度合いによって、成年後見人ではなく、保佐人や補助人がおかれるケースもある。しかし、本人の同意なしに株取引が行えるのは、最も認知能力が低い場合に置かれる成年後見人のみである。成年後見人は本人の財産を適切に維持・管理することが求められているので、株などの元本割れする商品を新たに購入することは認められない。既に保有している株については、これを保持するのか、或いは売却するのかという選択になるが、それは成年後見人の考えに任せざるを得ないのだ。

子供としては、親に配当をもらい続けてほしいかもしれないし、相場観のある人なら売りたいタイミングのイメージもあるかもしれない。しかし、子供であってもそうした考えを実際の行動につなげることはできない。また、成年後見人の制度を利用するには準備に2か月程度はかかるので、株価が下がっているときには余計にやきもきしそうだ。

家族のためにも、日本のためにも、親が元気なうちにしておくべきこと

残念ながら、親が認知症になってからでは、子供がその保有する株について何もできないケースが多いということになる。やはり親が元気なうちから、せめて取引のある証券会社だけでも聞いておくことが重要だろう。

ネット証券を利用している場合には残高報告書なども郵送されない場合があり、親族が全く気付かないままになってしまうケースも想定される。証券会社によっては、成年後見人でなくても、親に代わって取引ができる取引代理人として親族が認められる場合もある。ただこちらも親本人の同意を前提として面談や電話での意思確認などが行われるため、認知症が発症してからでは利用できないことには注意が必要だ。

付け加えて少し大きな話をすると、2035年には有価証券の15%を認知症の高齢者が保有するというみずほ総合研究所の試算もある。それだけの有価証券が塩漬けになれば、日本経済のダイナミズムへの影響も少なくないだろう。家族のためにも、大きくは日本のためにも、お金や財産の話は聞きづらいなどと遠慮せず、早めに親と対応を相談しておくことが重要なのだ。

文・北垣愛(ファイナンシャルプランニング1級技能士)/ZUU online

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