完全に腑に落ちたわけではないが、少しは理解できたような気がした。パク・チャヌクは映画『サイボーグでも大丈夫』(06)の中で、「希望を捨てろ、元気を出せ」と言った。無理難題に思えたが、その権化が目の前にいると思えば、納得できないわけではなかった。

 夢も希望も絶望も不安もなく、ただ人一倍の元気だけがある人間がいた。その人間が、元気がなくなって、飯が食えなくなったので、死ぬ。それを人は寿命と呼ぶ。思えば、叶井は本の中で何度も「寿命なんだからしょうがないじゃん」と言っていた。

「ねえ、タバコ吸っていい?」

 一連の取材が終わると、茶目っ気たっぷりに叶井が尋ねてきた。このスペースが禁煙であることは叶井も知っているし、タバコにはさまざまな健康上のリスクがあることも常識だろう。

 知ったことか。この人は、もうすぐ死ぬのだ。私が窓を開け放つと、叶井は慣れた手つきでアメスピに火をつけた。

(文中敬称略/文・構成・写真=『エンドロール!』担当編集)