あっけらかんとしたものだ。数年ぶりに会った映画宣伝プロデューサー・叶井俊太郎は、すっかりやせ細っていたものの、相変わらず必要以上に大きな声でしゃべる男だった。

 叶井が膵臓がんで余命半年なので、旧知の業界人を呼び出して対談集を作るのだという。その書籍の編集を担当することになって、ある程度、覚悟を決める必要があった。末期の膵臓がん、余命半年、いつ死んでもおかしくない。そういう人物と、密に接したことがなかった。直前に井上雄彦のマンガ『リアル』(講談社)を読み返していたこともあり、死に瀕した高校生・ヤマの姿が目に浮かんだ。筋ジストロフィーを患い、近く死を覚悟していたヤマは泰然とその日を待っていたが、やはり実際に死期が迫ると取り乱した。「セックスがしてみたかった!」それがヤマの未練だった。

 そのヤマに比べれば、叶井が接してきた女性の数は空前絶後である。だから大丈夫だろうというわけでもないが、目の前で急変されて対応できるかどうかという大きな不安と、校了前に死んじゃった場合、編集者としてのギャラはどうなるのかという小さな不安とで、モヤモヤを抱えながらのジョインとなった。