◆純度を高める奇跡的なナンバー

 こうした物語性は、俳優だけでなく歌手のボーカルにも実力が発揮されるのだからさらに驚く。実は2008年にシンガーソングライターデビューしている松下が、2021年にリリースした「あなた」がひときわ芳醇な物語を感じさせる。

 同曲のサビはこうはじまる。“あなたが好きで 好きで 好きで 好きで 好きで…”という具合に、恥ずかしいくらいに好きが連打される。情熱的に歌い上げる松下のボーカルが着地するのは、“Lで始まる 終わらない物語”というフレーズ。

 いや待ってくれ。「LOVE」を「Lではじまる終わらない物語」と置き換えて表現するとは、さすが名プロデューサー松尾潔の洗練された作詞術ではないか。松下の歌声がさらに純度を高めるという奇跡的なナンバー。

 2度目のメジャーデビューにしてシンガー松下洸平が描く愛の物語がここに極まった。自ら作詞した最新シングル「ノンフィクション」には、等身大の日常が込められている。平易な言葉だからこそ、歌詞のフレーズひとつひとつが松下の演技のように粒立つ。