◆ビールCMでの名演中の名演

 アサヒ生ビールのコマーシャル「出張とおつかれ生です。」篇を見たとき、この“松下洸平物語”を筆者は強く感じた。都会の喧騒にもまれて疲れた様子の松下がやってくるのが、一軒の居酒屋。温かみのある店内は、仕事を終えた客たちで賑わっている。

 こういう活況溢れる店では、ビールがよく注文されるから、新鮮でクリアな味わいが格別にうまい。カウンター席にひとり座る松下が、早速ひとくち。疲れが一気に吹き飛ぶ表情で、この一音。「はぁぁぁ〜」。

「ぷはぁぁぁ〜」とか「ぷへぇぇぇ〜」のような破裂音ではなく、甘いため息のような一音を慎ましくもらすのだ。これだけでドラマができてしまう。

 数十秒の映像にも重厚な物語を宿らせてしまうこの繊細さ。いやはや、この人の俳優としての感性は、どこまで研ぎ澄まされているのか。松下洸平が繰り出す名演中の名演だと思う。