◆人間の愛情を「信じている」岩井俊二監督の優しさ

 純粋な青年である一方で少しだけ軽さを感じさせる松村北斗、観客にもっとも近い立場で物語を追う小学校の先生役の黒木華も、これ以上は望めないキャスティングおよび演技だった。

 『スワロウテイル』や『リリイ・シュシュのすべて』でも岩井俊二監督とタッグを組んだ小林武史の音楽の相乗効果も相まって、二度とないであろう、映画のマジックが起こっていた。

 取り返しのつかない悲劇や人間の悪意を容赦なく描いても、どこかで人間の愛情を「信じている」。そんな岩井監督の優しさがこれまで以上にはっきり打ち出されており、その意味で集大成的な作品でもあった。

 さらに、出逢いそのものの喜びや、その時にしかなかった尊い関係性も描かれる。そして、過去は変えられないが、それは良いことであれ悪いことであれ、現在に繋がっていく。

 それらを持ってして、4人の男女には、確かにかけがえのない時間があったのだと心から思えるだろう。複雑な感情が胸いっぱいに込み上げてくるような旅を、ぜひ映画館で見届けてほしい。

<文/ヒナタカ>

【ヒナタカ】

「女子SPA!」のほか「日刊サイゾー」「cinemas PLUS」「ねとらぼ」などで映画紹介記事を執筆中の映画ライター。Twitter:@HinatakaJeF