特に印象に残ったのは陣内智則さんの「「芸歴30周年になるんですけど、全然緊張しますね。いつまで緊張すんねん」というコメントだ。陣内さんはネタをやらないタイプの芸人ではなく、こういったネタ番組では比較的ネタをやることが多い芸人のひとりだ。30年も芸人をやり、そしてネタもやり続けていると緊張なんてしなくなるのではないかと思う人も多いだろう。
しかしどんな芸人でもどんなに芸歴を重ねても、ネタを披露する場面では間違いなく「緊張」してしまうのだ。これは陣内さんに限ったことではない。この番組においてもネタ終わりのコメントでバカリズムさんは「緊張しますね。緊張したなぁ」と言っている。さらに芸歴35年になる、あの爆笑問題さんでさえ、はっきりと「緊張した」と言っているのだ。
これだけベテラン勢が口を揃えて緊張するという仕事もそう多くは無いだろう。ある程度芸歴を重ねるとコンビならではの呼吸が身につき雰囲気で笑わせることが出来たり、お客さんとの駆け引きもそこまで苦労しなくて済む。さらに場の空気を読んでネタを微調整したり、アドリブで笑いを足したり、キャラクターの浸透度もプラスされるので若手時代より比較的楽にネタをやることが出来るのだ。それでも緊張するというのはネタ自体のテクニック的な部分ではなく、もっと違う部分が芸人が感じる緊張の原因となっているのだ。それは間違いなく「絶対に笑わせなければならない」というプレッシャーだ。
芸歴を積めば積むほど、知名度が上がれば上がるほど、ハードルというのは明らかに高くなっていく。ハードルが上がると、ちょっとしたことでウケるという利点がある反面、その芸人の色とも言える発想の奇抜さやネタの上手さなどは見続けると視聴者的に慣れが来てしまい、逆にウケづらくなってしまうのだ。なので常に100点の笑いを目指しているネタ芸人たちは、ベテランになればなるほど自らが作ってしまったいくつものハードルを越えなければならない為に、計り知れないプレッシャーと戦っているのだ。