◆受け身でいる自分をひっくり返したかった

受け身でいる自分をひっくり返したかった
『ロストケア』より
――かつて対談の仕事をされた際に、ご自身の生と死について深く考えるようになったとお話されましたが、松山さんは、以前からご自身の生き方とお仕事がリンクしている、影響を受け合っている印象を受けます。それは自然に? それとも敢えてですか?

松山ケンイチさん(以下、松山)「僕は17歳から東京に出て来て、アルバイトをして少しずつ仕事を始めていきましたが、いろんな人と出会って、異業種の方たちと話して、名刺持って交流して、時には飲みに行ってといった、いわゆる社会経験というものをしてこなかったんです。

 立場とかいろんな違いから、考え方や価値観も全然違ってくるとか、そういうことを勉強してきていない。俳優として演じる役からしか、人生の勉強をしてこなかった。だからどうしても、『この役の生き方は面白いな』とか、『こういう役の生き方はしたくないな』とか、自分が主体じゃなくて、受け身になるんです。それをひっくり返したかったんです」

演じる役からしか人生の勉強をしてこなかった
『ロストケア』より
――ひっくり返したいと思ったきっかけは?

松山「家族を持ったことです。結婚して子どもができて。いつまでも受け身でいる自分では足りないと気づいた。それまでも危機感はあったんですけど、はっきりひっくり返したいと思いました。それで足りない部分をどうにかするためには、自分で動くしかないと。自分で動いて何かを得ていく。役から得られるものだけではなくて、俳優の仕事以外の世界、外の世界は無限に広がっているわけだから、そこで自分が何を感じるか、何を掴んでいくのかの方が大事だと思いました」