◆アカデミー賞俳優の名演にも勝る正確な演技

「ベルガモットの香りがします」

 FBIから派遣されてきた特別捜査官・皆実広見(福山雅治)は、アメリカから来日する飛行機内でさっそく、手柄をあげる。ご所望の蕎麦を食べ、残った汁に蕎麦湯を注ぎ入れているところ、店内に入ってきた警視庁の護道心太朗(大泉洋)に向かって言った一言だ。

 他にも湿った靴音など、相手の素性を把握するための情報を視覚以外の感覚で瞬時に集め、分析する。すご腕の盲人が、特に香りに敏感な姿を見て思い出すのは、アル・パチーノが全盲の退役軍人を怪演した『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』(1992年)だ。

「わずかなため息も気持ちが伝わります」と言って、相手の真意を読む読心術を駆使する様子も、同作へのオマージュを感じる。頑固なフランク・スレード中佐役がやや過剰な演技の気もするアル・パチーノに対して、福山は割と素直なところが多い皆実役を繊細かつ大胆に演じる。

 かたやアカデミー賞主演男優賞に輝いたアル・パチーノ、かたや日本トップの大スター福山雅治。ここは(大胆にも)福山に軍配を上げたい。アカデミー賞俳優の名演にも勝る福山の正確な演技は、非の打ち所がないからだ。