『2001年宇宙の旅』のスタンリー・キューブリック監督が劇中のナレーションをすべて削除して、公開前に原作本で内容が知られないように販売を遅らせる工作までして、完全に臥せたように。
しかしそれだけでは内容が伝わらない恐れがあるため、劇中の様々な描写に自身の過去作からのオマージュ的なシーンを散りばめた。本作で飛行機の工場社長をしている父親というのは間違いなく宮﨑駿監督の父親のことで、つまりこれは個人的な物語なんですよ、というのがわかるようにしている。監督の過去作を見ていればおのずと劇中で示されているのが何か、がわかるようになっている。
だから「何が言いたいのかわからないから、つまらない」というのはもったいない。日本人の多くは劇場や、テレビの『金曜ロードショー』(日本テレビ系)のジブリ特集で、宮﨑駿作品を年中浴びるように見てきた人たちだ。巨匠が何を考え、何を伝えたいのかは必ずわかるようになっているので、もう一度観に行ってほしい。
この映画を見ながら筆者は「ツチノコ芸人」と呼ばれた漫談家、テントさんのことを思い出した。テントさんの話芸はあまりに独特なので、ついてこられない人が多く、そうしたお客さんに向けてテントさんは
「いちいち説明しませんよ。義務教育やないんやからね」
という笑いを飛ばす。『君たちはどう生きるか』もそうではないか。いちいち説明しませんよ。義務教育じゃないんだから、別に観なくてもいいんですよ。でも見たらきっと笑うね、テントさんの芸と同じで。
まさか世界の巨匠と孤高の芸人が同じ方向を向いていたとは、恐るべし。