「ユタ州の実験場近くに住んでいる知り合いがいるのですが、現地では核実験によってもたらされた被害について声を上げることが、タブーとされているらしいんですね。また、米国には日本への原爆投下だけではなく、自国で行われた核実験を知らない人も多いです。そのため、リッチランドの日本人留学生が行ったようなスピーチは、現地の若者たちが新たな視点を学ぶ良いきっかけになることを願います」(ジェイコブズ氏)

また、ハンフォード・サイト含め、かつてマンハッタン計画に関わったニューメキシコ州ロスアラモスとテネシー州オークリッジの3カ所は、現在、国立公園としての整備が進められている(2020年開園予定)が、これにはどのような意味合いがあるのだろうか?

「これは“過去の成功体験を語り伝えるため”だと思います。核開発に成功した偉大な米国のパワーを語り継ぐことはできるかもしれませんが、今の計画では核の脅威を残すことは難しいと考えています。しかし、核のパワーだけを取り上げて、放射線障害などを忘れ去るというのは、あまりにも都合がよすぎるのではないでしょうか」(山本氏)

前出のジェイコブズ氏はハンフォード・サイトの被ばく者支援団体と連携して、国立公園の準備委員会に対し、“周辺住民の健康被害”に関する展示スペースを設けるよう求めているようだが、それら現地の抵抗は予想以上に強いという。「原子力の安全神話」の名残は、米国でも問題になっているようだ。