山本「裁判の結果に、捜査官はみんな驚いたそうです。ルーシーさんの切断死体が見つかり、織原がチェンソーを購入した記録も残っていたのですが、ルーシーさんのことも撮っていただろうビデオテープは見つかりませんでした。決定的な証拠がないことから、肝心のルーシーさんの事件に関しては無罪になったんです。この事件に関わった捜査官たちは、性犯罪を立件化することの難しさを痛感したそうです。200人以上の性被害者がいながら、立件に同意した被害者女性は8人。性犯罪を立件する難しさは、今もほとんど変わっていない状況です。マスコミで大きく取り上げられただけでなく、いろんな意味で当時の捜査官たちにとって忘れられない事件になっているんです」
山本兵衛監督が「ルーシー・ブラックマン事件」に強い関心を持つようになった『黒い迷宮』では、犯人・織原城二は裕福な「在日韓国人」一家に生まれ、21歳で日本に帰化したことについても触れている。だが、本作では織原の生い立ちには言及しない形でまとめてある。
山本「複雑なアイデンティティーが犯人の人格形成に影響を与えたであろうことは、容易に推測することはできます。しかし、そこを掘り下げていくと事件の本筋から大きく離れていくことになるので、本作ではあえて触れていません。あくまでも事件に向き合った捜査官たちの視点から描いたドキュメンタリーとしてまとめています」
英国人社長が理不尽な理由で解任されたオリンパス事件の真相を追った『サムライと愚か者』、カルロス・ゴーン元日産会長の栄光の日々と逃亡劇の裏側を描いた『逃亡者 カルロス・ゴーン』などのドキュメンタリーを手掛けてきた山本監督は、今回の取材を通して「ルーシー・ブラックマン事件」をどのように受け止めているのだろうか。
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