「リアルな30女」を演じられる女優
では日本版はなぜ、「ガサツな非モテ女」を引き受けられる女優をキャスティングして、台湾版と同じ性別の配役としなかったのだろうか?
本作のマスコミ用プレスの記載によれば、脚本のクドカンは配役で煮詰まり、山下敦弘監督から男女を入れ替えてはと提案され、「ヒロインが岡田将生くんなら、それもアリですね」と答えたそうだ(注:”ヒロイン”は間違いではない)。
隠れ美人でもなんでもない「リアルな冴えない30女」の役を引き受けられる、かつ一定規模以上の商業映画で主演を張れるネームバリューがある女優は、国内屈指の脚本家が「配役で煮詰まる」ほど、日本には数が少ないのだろうか?
SFファンタジーとしての高い完成度、軽やかでいて安心感のある演出、役者陣の好演、心が洗われるラストの清々しさとは裏腹に、期せずして作品外で変にモヤモヤしてしまう1本であった。
『1秒先の彼』
監督:山下敦弘
脚本:宮藤官九郎
出演:岡田将生、清原果耶
2023年、日本/119分
配給:ビターズ・エンド
7月7日(金)全国ロードショー
©2023『1秒先の彼』製作委員会