台湾版は「ギャップ萌え」のジャイアン

 本稿では「萌え」を、「保護欲や庇護欲やフェティシズムをしばしば伴う、対象への好意的な感情」とでも定義しておこう。要は疑似恋愛感情だが、相手と対等な関係性を構築して交際を望む願望というよりは、一方的に「愛でたい」という気持ちの高ぶりである。

 台湾版『1秒先の彼女』での萌えは「ギャップ萌え」だ。

 シャオチーは、キャラクター設定上、決して「美人」には描かれていない。この点、「見た目だけはイケメン」として描かれている日本版『1秒先の彼』のハジメとは対照的だ。

 シャオチーは貧乏な30歳の独女、一人暮らしで、部屋は粗末でお世辞にも清潔感はない。服のセンスはリアルに凡百で、ガサツで化粧っ気がなく、眉はあまり整えられておらず、髪に気を遣っているようにも見えない。あからさまに「ぱっとしない、冴えない女性」として描写される。竹を割ったような性格と行動力はあるものの、わかりやすく非モテなのだ。

 そのシャオチーは物語後半、グアタイ視点の途中で、ある出来事によって信じられないほど魅力的な笑顔をグアタイと観客に披露することになる。今までのガサツキャラからは想像もつかない、エレガントでチャーミングで慈愛に満ちた、劇中ぶっちぎりで最高のスマイル。そこに生じる一種のツンデレ的な「ギャップ萌え」に、観客(特に男性)はズギュンとやられてしまう。

 『ドラえもん』で言うなら、「ジャイアン、普段はいじめっ子なのに、映画版では仲間思いの超いい奴に変貌」的な萌え、とでも言おうか。