厨二男子の大好物
パワフルで非モテなジャイアン系女性を主人公に据えた台湾版と、控えめで幸薄なのび太系の女性を主人公に据えた日本版。しかし、こんなことを言う外野も出てきそうだ。「元がよくできた映画なんだから、わざわざ性別を入れ替えなくてもよくない?」
しかし性別をチェンジした意味はある。結果的に本作は、“ある種の男性好みの物語”に大きくチューニングされたからだ。
日本版の主人公ハジメは、やや社会不適合者で同調圧力に屈しない変わり者として描かれる。ある意味で、厨二的な未成熟パーソナリティの持ち主だ。その社会不適合者は、自分のことを幼い頃から長年にわたって密かに好いている控えめな女性(レイカ)の想いに気づかない。実になんというか、「厨二男子的な観客」にいかにも好まれそうな鉄板設定である。
台湾版のように性別が逆だと、こうはならない。そもそも、「長年にわたってある女性を密かに好いている控えめな男性」と「長年にわたってある男性を密かに好いている控えめな女性」は、決して対称の関係にはない。性別ラベルの反転だけで済む話ではないのだ。前者はしばしば「キモい」と吐き捨てられ、後者は往々にして「健気」と愛でられる。あくまで傾向として、だが。
ではなぜ台湾版が「キモい」とならなかったかと言えば、男性が密かに好いている女性が「ガサツな非モテ女」だからだ。広くニーズがあるわけではない女性を一途に想い続けているというキャラクター設定上の好印象は、「キモさ」を上書きする。実際、キャスティングと演出の妙で上書きは見事に成功した。
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