汚染後の自然は互いに敵対し、時には共存しあう複雑な生態系として描かれた。自然の力強さの前には人間の力などたかが知れた物で、核兵器で世界を滅ぼしても尚、武器を捨てられず戦うことを止められない自然の驚異を知ろうともしない人々へのメッセージである。

 ナウシカはただひとり、人類の害毒とされる腐海を見て「きれい」という。互いに武器を突き付け侵略に怯えるよりも、草木を破壊する汚染とまじりあいながら独自の進化を遂げていく自然の驚異にこそ、人間は畏れを覚えるべきだと。

 その後も宮崎は同じテーマの延長上に作られた『天空の城ラピュタ』『ナウシカ』の結末に納得できず、やり直しを図った『もののけ姫』といった作品を作ってきた。

 高度経済成長が生み出した負の側面、公害問題によって逆に自然回帰を訴える声が上がり始めたころに、鉄とセラミックに塗れて破壊された自然との共存こそが人類の進化だと訴えた宮崎駿はやはり只者ではない、巨匠と呼ばれる所以である。