こうした組織の問題は、司令塔であるデジタル庁にとどまらない。

「J-LIS」(地方公共団体情報システム機構)という団体がある。住基ネットを運営する機構であるが、現在はマイナーカードの発行事業も一手に担っている。いわば、マイナ事業の中核組織といえるようだ。

 この団体もやはり民間企業からの出向者を少なからぬ割合で受け入れているが、「こちらについても、国のデジタル事業において指摘されてきた、ベンダー・ロックインの陥穽に嵌まり込んでいる疑いがあります」(同)

「要は、デジタル業務を、これまで受注実績の多かったNTTなど大手のITゼネコンが受注する。そしてその後の運用、保守などを行うことによって、事業に特定のIT事業者、つまりベンダーしか携わることが出来なくなってしまう現象です。すると既得権益が生まれ、競争が働きませんから、発注費が高止まりし、システムの進化も起こりません」(同)

 デジタル関連で大手ベンダーと言われるのは、NTT、NEC、日立製作所、富士通とその関連会社であるが、この3年の随契全体のうち、これらの企業が占める割合を調べてみると、件数ベース=78%、金額ベース=92%と、極めて高い割合である。見事なベンダー・ロックイン状態を表しているのだ。

 こうした政府挙げてのプロジェクトで甘い汁を吸う人間はいるものだが、それがまたあの人だと新潮は指摘している。

「ここ20年ほど、政策の裏に必ず現れ、それを商売に利用してきた“政商”の存在もちらついている。あの竹中平蔵氏が、この一大国家事業にノータッチであるわけはもちろんない」

 竹中氏自身、ここ10年で政府の「産業競争力会議」「未来投資会議」「成長戦略会議」のメンバーを歴任。岸田政権においても「デジタル田園都市国家構想実現会議」の構成員の1人であるが、これらは皆、マイナ政策を推進してきた会議体なのである。

 竹中は昨年退任するまで人材派遣会社の「パソナ」の取締役会長の座にあった。「パソナ」には官公庁や自治体向けに業務委託サービスというのがある。今回のマイナでも、それで大きく稼いでいるようだ。

 千葉市の区政推進課の話によれば、

「現在20人の派遣を受けています。業務の内容は申請サポートや必要書類の確認など。最初の契約は一昨年で、以来3年間で計2億4000万円を支払っています」

 これは千葉市1市だけの額である。もちろん受託しているのは同市だけではないだろうから、やはり川上で政策を進めながら、同時に川下で関連事業を自らの関係先が受注する――竹中氏の振る舞いは「我田引水」と言われても仕方ないのではないかと、新潮は追及する。  

 さらに、医療機関でマイナにまつわるトラブルが大きくなっているというのだ。

 全国保険医団体連合会の住江憲勇会長が、

「我々としては、直ちにマイナー保険証を停止し、解決策を考えてほしい」

 続けて、

「私たちが全国の医療機関で行ったアンケートによると、回答があった1万件のうち、現時点でトラブルが起こったと答えた割合は3分の2にも及びます。その中の3分の2は保険証が無効とされる事案で、3640件もありました。そもそも今、マイナ保険証を提示される方は全体の6%、16分の1に過ぎません。しかも、全国に医療機関は18万箇所ありますから……」

 マイナ保険証に一本化されれば、単純計算で3640 × 16 × 18=100万件を超えるトラブルが予想されるというのだ。

「これだけならまだ支払上の問題ですが、先のアンケートでは他者の医療情報の誤登録も114件あった。政府はこれを単にトラブルと呼びますが、病歴や血液型、処方歴、アレルギーなどの誤認は命に直結するため、トラブルでは片付けられません。それもGW明けから6月までの短期間でこの数字です。本当に一本化が始まれば一体、何が起きるのか……」

 かくして、デメリットばかりが目立つ“マイナス事業”へと変質したマイナ事業は、すぐにいったん停止して、熟議をして再出発するか、止めるかを決める必要がある。