ドキュメンタリーの醍醐味は、シナリオがないことに尽きるのではないだろうか。『絶唱浪曲ストーリー』は、川上アチカ監督自身も考えていなかった方向へと進んでいく。小柳師匠を失い、ひとりぼっちになった小そめの面倒を、曲師である玉川祐子師匠が引き継ぐという意外な展開が待っていた。100歳を間近に控え、初めて弟子を持つことになった祐子師匠が後半パートの主人公となっていく。2022年には100歳となり、「百寿記念公演」を成功させるなど、祐子師匠は芸人として今、キャリアハイ状態を迎えている。
川上「もともとお元気だった祐子師匠ですが、モチベーションを持つことでここまで輝くことができるのかと驚きました。祐子師匠は浪曲界の生き字引的存在。あの広沢虎造(二代目)が活躍していた時代を体験しているんです。多くの浪曲師たちと組んできた豊富なキャリアがありながら、それまであまり脚光を浴びることがなかった。それが100歳近くになって、小そめさんを預かり弟子として引き受け、一人前にしようとすることで、祐子師匠自身が最高に輝くことになったんです。小そめさんも『祐子師匠を輝かせたい』という想いがあったようです」
100歳にして最高の三味線を奏でるようになった祐子師匠の言葉は、ひと言ひと言が金言だ。中でも小そめに向けた台詞は、至高の名言として胸に刻まれる。
「私たちは血はつながっていないが、芸で結ばれている」
弟子として、こんなにもうれしい言葉はないだろう。川上監督が撮り上げた本作は、浪曲という世界を通して、血縁とは異なるコミュニティーが存在することを映し出した作品となっている。
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