港家小柳師匠、その相方を務める曲師の玉川祐子師匠。人生の大ベテランのもとに小そめは通い、彼女たちが長年にわたって培ってきた伝統芸を、日々体になじませていく。稽古が終われば、祐子師匠が用意したお茶菓子をつまみながら、リラックスした茶飲み話に。おばあちゃんと孫娘のような、ほんわかした時間が流れていく。

川上「年齢が離れていたこともあったのか、小柳師匠も祐子師匠も、小そめさんをかわいがっていました。他の伝統芸能に比べ、浪曲の師弟関係はよりアットホームだと聞いたことがあります」

 浪曲の世界には「お腹を空かせて弟子を帰さない」という鉄則があるそうだ。決して裕福な生活ではないものの、同じ道を志す弟子たちに対する師匠の温かい気遣いが感じられる。

川上「映画の中にも『君塚食堂』という木馬亭のお向かいにある大衆食堂が映りますが、寄席が終わると師匠方は弟子や若い前座さんたちに声を掛けて、そうした食堂でご飯を食べさせてから帰すんです。私もたびたびごちそうになりました。師匠たちは遊ぶのも大好きで、大衆演劇を一緒に見に行ったり、カラオケにも誘っていただいたこともありました」

 師匠は芸を教えるだけでなく、芸の世界での生き方も伝える。また、弟子である小そめが高齢の師匠たちの日常生活をケアしている様子もうかがえる。世代の異なるシスターフッドムービーでもあるようだ。