◆変わりゆく変わらないもの

 さて、ここで重要になるのが、この演技の微妙な違いである。テンションは同じでも、ほんのわずかに違う。そこが演技も含めた表現全般の奥深さだ。

 例えば、音楽の世界では、『ブルース・ピープル』の著者リロイ・ジョーンズの「Changing Same」という言葉が有名である。日本語訳すると、「変わりゆく変わらないもの」となる。主にブラック・ミュージックを指しているが、時代に合わせてサウンドは変化するが、根底の精神性は変わらない。

 田中の演技もこうした音楽表現同様に、毎回の作品で役柄は当然違うんだけれど、でもやっぱり変わらない魅力がある。

 で、この言葉、ドラマ全体にとってもかなり重要なキーワードになる。虎松が愛したこころは、実は吸血鬼一族なのだが、永遠の若さを持ち、何世紀も同じ姿で生き続ける吸血鬼こそ、「変わりゆく変わらないもの」の最たる存在ではないか。