◆酔いどれの演技にみる“芸の細かさ”

 本作がテレビ朝日のドラマ作品ということで、当然、田中最大のはまり役、“はるたん”こと春田創一を演じた『おっさんずラブ』(2018年)を思い出さないわけにはいかない。このはるたん役こそ、田中の演技マナーを決定づけたと言ってもいい。

 勘のにぶさもはるたん気質。本作でもいつもの調子の田中が、天衣無縫(てんいむほう)に動き回る。例えば、酔っぱらいを演じるときの田中は、もやは名人芸の域にある。はるたんがことあるごとに飲んだくれて帰ってきて、そのまま廊下で寝てしまっていた。同じように本作の虎松もその後、運命の人となる闇原こころ(高畑充希)との出会いの場面でぐでんぐでんの酔いどれを演じる。

 虎松が離婚する前まで住んでいた住所に、今はこころが住んでいて、酔うとついそこに帰ってしまう。翌朝は、パキッと表情を変えて手土産を片手に謝罪する。はるたんに似たテンションの酔いどれ場面でも、わずかにパターンを変えて演じているのがわかる。さすがは、天下の酔いどれ俳優だ。芸が細かい。