この日の『アメトーーク』は大きく分けて2部構成。前半では、芸人たちだけで井森の魅力が語られた。芸人らは口をそろえて「共演者にいてくれると助かる」と語る。いわく、トークをつないでパスしてくれるし、イジられたときの返しも秀逸だ。カメラが回っていないところで出演者を盛り上げたりもする。あるいは、スタッフが編集しやすいようにトークをするのだという。井森自身がほとんど語らない、タレントとしてのテクニックのようなものが語られていった。

 で、番組後半は井森も登場。共演の多い芸人たちにとっても謎が多い井森に対し、さまざまな質問が投げかけられる。井森がそれに答える。が、その返答にはやはり中身がほぼない。井森いわく、子どものころは餅が好きではなかった、シャツが好き(特に左胸にポケットがついているもの)、パジャマが好き(特に綿100%のもの)――ずっとこの調子で話し続けるのだ。そしてそれが、とても面白い。

 この日、井森が自身の“内面”について直接的に語ったのは「(憧れてるのは)高田純次さん」と言ったときだけだっただろうか。しかも「なんかこう、なんとなく」と付け足しながら。

 それにしても、なぜこんなに井森が面白いのだろう。ひとつは、“深い”トークが期待される場面で“浅い”トークをするから面白い、という面があるはずだ。加えて、自分についておそらくあまり語りたがらないのだろう井森は、深いところを聞いてこようとする芸人たちの質問をかわしていくが、そのかわし方が面白いのだと思う。

 たとえば、「怒ったことってあるんですか?」と聞かれた井森は、「シャツ、私好きじゃない?」と語りはじめた。「怒ったこと」というトークテーマからかなり遠くにある「私はシャツ好き」との情報。おそらく井森は、質問にすぐに答えずに回答を遅延させることで、自分について語らなければならないような状況をかわしているのだと思う。で、質問から相当距離のある答えがいきなり投下されるから、見る側はその意外さに笑ってしまう。

 本質をたずねるようなトークの包囲網を、井森は身をよじってすり抜けていく。そんなさまに、彼女の面白さが宿っているのではないか。なんかこう、なんとなく。