山田杏奈が演じるのは「何かを諦めているからこそ強い」少女
山田杏奈は、『名も無き世界のエンドロール』『彼女が好きなものは』などで天真爛漫な女の子をとても愛らしく演じられる一方で、『小さな恋のうた』『五億円のじんせい』などでのクールまたはダウナーな役にも合う演技の幅の広さがある。今回の『山女』での役柄は言うまでもなく後者に近い。そして、山田杏奈本人が演じる少女・凛に「諦めの精神」を感じており、以下のように語っているのが興味深い。
「最初からどん底にいるから、そもそも人間に期待をしていない。その感覚は現代の若い世代にもつながる気がします。私も“悟り世代”と呼ばれる世代で、わりとそういうところがあるんですよ。上の世代の方に、野望はないのかと聞かれたことがあるんですけど、ないんですよね。何かを諦めているからこその強さもあると思うんです」
なるほど、若者に野心や夢がない、達観しているといったことは、上の世代から見ればもどかしさを覚えるかもしれないが、ある意味では自分が置かれた状況を俯瞰して見る精神的な強さがある、という言い方もできる。俳優としての山田杏奈本人のその考え方は、確実にこの『山女』で演じた役に投影されていたのだろう。
その精神的な強さは、とあるシーンでの山田杏奈の“眼光”にもしっかり表れていたと思う。全体的な画は暗く、彼女の顔を中心に光が当たっている最中で、決して屈しない心を体現した表情は脳裏に刻み込まれるような感覚があった。暗がりが映えるスクリーンで観てこそ、改めて山田杏奈という俳優の表現力にも気づけるだろう。
ちなみに、福永壮志監督によると、遠野弁の方言のセリフは俳優たちと共有し、撮影前にしっかり準備をしてもらい挑んだという。山田杏奈はもちろん、俳優それぞれの「本当にここで生活している人」に思えるほどの、方言の「板のつき方」にも注目してほしい。「おめえみてぇな男が楽にもらえる女じゃねえぞ」と“凄み”を効かせる三浦透子も素晴らしかった。