脚本が軽視されるようになった映画界

 どんなにいい脚本があっても、映画化の企画はなかなか前に進まない。映画プロデューサの伸子が叫ぶ「スポンサーはポスター映えするキャストの顔と客が呼べる原作しか求めていない」という台詞は、今の日本映画界の窮状をリアルに言い当てている。

髙橋「脚本家の加藤さんらの心の声が聞こえてくるような台詞です。加藤さんとは、根岸監督の『雪に願うこと』(06)で仕事をご一緒し、同じ秋田出身ということから時おり日本酒を飲む関係です。今は漫画やアニメ、ベストセラー小説の映画化が主流になっていますが、大事なのはオリジナル脚本を作り続けることだと思うんです。映画業界の底上げのために、そこは忘れちゃいけないところです」

 人気キャストが決まっても、優秀なスタッフが集まっても、映画の設計図である脚本がダメだと面白い映画には決して仕上がらない。映画制作の不変の真理であるにもかかわらず、浩平と香織は渾身の脚本を抱えたまま、右往左往することになる。10年間、『渇水』の脚本を抱え続けた髙橋監督自身を思わせるものがある。

 想像を絶するトラブルに見舞われる浩平たちだが、いちばん衝撃的なのは、憧れの映画監督・蒲田志郎と浩平が出会うシーンだろう。浩平は蒲田監督が撮ったスタイリッシュな映画に魅了され、映画業界入りを決意した。憧れの存在にようやく会うことができた浩平だったが、かつての名監督の口から出てきた言葉は、あまりにも残酷だった。