志村けんにも愛された磯山さやかの明るさ
映画『渇水』の公開を間近に控えていた髙橋正弥監督に会うことができた。10年がかりだった『渇水』に比べ、『愛のこむらがえり』の準備期間は短かったが、それでもコロナ禍前の2018年から温められていた企画だった。映画監督は忍耐力がないと務まらない職業のようだ。
髙橋「監督である僕にもっと力があれば、『渇水』は10年も待たずに済んだでしょう(苦笑)。白石和彌さんが脚本を気に入り、プロデュースを引き受けてくれたおかげで映画化できた企画でした。『愛のこむらがえり』は脚本家の加藤正人さんらが書き上げた脚本を読ませてもらい、タイトルへの興味もあり、僕が預からせてもらった企画です。まだ他にも、いくつか持ち歩いている企画があります(笑)」
髙橋監督の劇場公開作は、『愛のこむらがえり』も含めて計4本。当然ながら映画監督だけでは食べていけない。普段は助監督としての現場仕事やプロデューサー業も並行することで、生活費を稼いでいる。
髙橋「待つことに、すっかり慣れました。助監督しながら監督するチャンスを狙っているところは『愛のこむらがえり』の浩平と一緒です(笑)。浩平と僕とでは違う部分もあるけれど、やはり映画業界で生きている者として重なる部分はすごくあります。
僕の場合はプロデューサーもしているので、プロデューサー的視点からキャストをまず先に決めたほうがいいだろうと考え、磯山さやかさんにオファーしました。志村けんさんの追悼番組で見た、コントをしている磯山さんの明るさが印象的だったんです。脚本の加藤さんたちも、最初の脚本は浩平視点が強かったのを、女性の香織視点を中心に変えていったので、そのほうが広がりが出てよかったと思います。プロデューサーとしての仕事を引き受けているうちに、自分で監督したほうが早いんじゃないかと考え、監督も務めることになったんです」