こうした前提を踏まえて『トゥース・フェアリー ~恋のヒト噛み~』を観てみよう。本作は、人間とヴァンパイアの恋愛を描いた、日本のマンガでもよくある設定の作品だ。

 社会問題を扱っていないかというと、そういうわけではない。人間とヴァンパイアという設定自体が、異宗教信者や外国人との恋愛のメタファーになっているのだ。人間とヴァンパイアでも恋愛関係は成り立つのだから、人間同士なら悩む必要なんてない、という着地点になっている印象を受ける。

 とはいえそんなメッセージ性は強過ぎることはなく、視聴者層も比較的若い世代がターゲットになっているので、インドのドラマ作品に対して親しみのない人にとっても、インドエンタメ入門編としてちょうどいいかもしれない。

 本作の男女キャラクターは、従来のジェンダー規範を(もちろんいい意味で)逸脱していて、人間男性の主人公ロイのほうが“ナヨナヨ”している。インドのドラマの主人公としては、少し前までは考えられなかったキャラクター造形だといえるだろう。新たな男性像として、こういったキャラクターが登場してくることにも時代の変化を感じる。

 また、ロイを演じているシャンタヌ・マヘーシュワリは、もともとモキュメンタリードラマ『Dil Dosti Dance』で注目されたことがきっかけとなり、テレビを中心にリアリティショーなどのナビゲーターとして活躍していたのだが、アカデミー賞のショートリスト(ノミネート候補作)にも入っていたアーリヤー・バット主演作『ガングバイ・カティヤワディ』(2022)で映画俳優デビューを果たした新人であることにも注目してもらいたい。