◆ジャズバーの「いいお客さん」だった彼に誘われて

夫は、私が働くジャズバーのお客さんだったんです。2年ほど前からの常連さんでした。あるアーティストのサポートメンバーのベーシストで、音楽仲間とお店に来ては、騒ぐでもなく寡黙(かもく)でもなく、ほどよく楽しそうに談笑している「いいお客さん」でした。

バーの女性店員と男性客
一方私は、バーテンもやれば簡単なおつまみも作る。たまには昔からしているギターを弾いたり歌うという……まあ、小さなお店ですから、なんでもやるような店員でした。もともと、音楽を仕事にできたらという気持ちもありましたので、ミュージシャンの夫とは最初から話が合いました。でも、最初はあくまでお客として接していたのです。

そんな関係に変化が訪れたのは、知り合って半年以上たったころのことです。彼が、他の仲間たちが席をたったりしたときに「このあとふたりで飲みにいかない?」なんて誘われるようになりましてね。

ま、バーですから、ときどきそういうお客さんもいらっしゃるけれど、基本的にはお店で禁止されていますし、私も常に彼氏のような相手はいましたからね。お店のお客さんの誘いに乗ることはまずなかったんです。

でも登(のぼる)……あ、夫の名前です。登は何度も誘ってきて、たまたま私、その時の彼氏と喧嘩中のときがあったんですよね。ちょっとした言い合いを電話でしたあとに仕事に入っていたのでむしゃくしゃしてしまって……登の誘いにのってしまったんです。