理不尽なことには、怒ってもいい

 本作はクスクスと笑ってほっこりとできるタイプのラブコメではあるが、過去の出来事を通じて「理不尽なことには怒ってもいいんだよ」という、極めて普遍的で優しいメッセージ、というよりも“提案”がされている作品であるように思えた。

 前述したようにヒロインの榊さんは感情を押し殺して淡々と生きている。それに対して、高校生の直達はどうすることもできない。怒ったって、何も問題は変わらないのかもしれない。だけど、それでも、どうしても「怒ってやりたい」という気持ちだけは間違っていないし、それは誰かの心を解きほぐすかもしれないし、あるいは究極の愛情表現にもなるのだと、終盤の展開から思うことができたからだ。

 原作漫画からのアレンジも的確で、直達が父親のとある言い分にも怒るのは映画オリジナルであるし、映画のラストの“切れ味”も見事だった。クールな年上のお姉さんと、純朴な少年との関係性というだけでも大好きであったのに、人生のどこかで遭遇する理不尽に対して「怒ってもいい」という大切な価値観を教えてくれる、この『水は海に向かって流れる』に出会うことができて本当に良かったと思う。ぜひ映画館でこそ、その優しさを心に染み渡らせるように観てみてほしい。

『水は海に向かって流れる』 6月9日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国ロードショー
広瀬すず
大西利空 高良健吾 戸塚純貴 當真あみ/勝村政信 北村有起哉 坂井真紀 生瀬勝久
監督:前田哲
原作:田島列島「水は海に向かって流れる」(講談社「少年マガジンKCDX」)
脚本:大島里美
音楽:羽毛田丈史
主題歌:スピッツ「ときめきpart1」(Polydor Records)
2023/日本/カラー/ビスタ/5.1ch/123分/G
C)2023映画「水は海に向かって流れる」製作委員会C)田島列島/講談社