淡々と生きている様が自然で、実在感がある

 広瀬すずの今回の役はクールと言えば聞こえはいいが、それを言い換えればやはり不機嫌。ともすると、魅力に欠けたヒロインになってしまってもおかしくないが、そこはやはり広瀬すずの表現力があってこその“気になってしまう”魅力に満ちていた。

 いつもは伏し目がちかつ無表情で、何を考えているかはわかりにくいが、時折見せる微細な表情の変化にドキッとしてしまうし、だからこそ彼女のことが気になる高校生の気持ちに同調して物語を追うことができる。そして、前田哲監督の言葉が、今回の広瀬すずの魅力を見事に表現していた。

「榊は、悲しくても悲しいと言わない、辛くても辛いと言わない、感情を封印してしまったようにして淡々と生きている。それが自然に見える人に演じてほしかった。広瀬さんは、湿っぽさを感じさせない、潔さ、清々しさ、そういったものを、水がすうーっと染みわたるように伝えてくれると思いました」

 過去の出来事を引きずっているキャラ、ということは“ウジウジ”した印象をも抱かせかねないと思うのだが、広瀬すずが演じてこその榊さんは、ウジウジとは無縁の、凛としたカッコ良さがある。だけど、ただ感情を押し殺すように、淡々と生きているような様を見ると、心配にもなってしまう。そんな要素を併せ持つキャラを、広瀬すずはまさに水を染み渡らせるように伝えてくれたのだ。

 なお、台本ができた段階で、前田監督と広瀬すずは、榊さんの心情や行動、セリフについて、1ページずつ確認する作業を行い、そのキャラを自身のなかに染み込ませていったのだという。そのおかげというべきか、広瀬すずという誰もが知る国民的な俳優が演じているのに、榊さんがこの世のどこかに本当にいるとさえ思える、実在感のあるキャラになっていた。

 彼女のことを気にかけるも振り回されてしまう、だけど主体性的に考える聡明さもある高校生を演じた大西利空も素晴らしかった。さらに注目なのが、アニメ映画『かがみの孤城』での繊細なヒロインの声の演技も記憶に新しい當真あみ。彼女もまた恋心を抱いていてドギマギする様、その気持ちをぶつける時のセリフが悶絶するほどかわいらしいので、そちらも楽しみにしてほしい。