もちろん上記の慣習は舞台をしている側、つまり呼ぶ側の意識で、呼ばれる側の意識は違う。基本的にある程度の地位にいた人は、上岡さんのようにお金を払う方が多い。これはあくまでも僕の憶測だが、その地位に就くまでに相応の努力や苦労をしているので、お金の価値をきちんと理解しており、演芸や舞台に対価を払う事の大切さが身に染みているのだろう。

 僕自身、劇団を立ち上げて、テレビ関係者、先輩、同期、後輩、様々な関係者を招待したが、99%の確率で招待されることを嫌がり、きちんとチケット代を払っていただいた。その中のテレビ関係者に言われたことを今でも覚えている。

 観劇終わりでその方と話していた時、「チケット代ってどこで払えばいいの?」と言われ、僕は「招待なので料金は大丈夫です」と返した。すると「檜山、お前は演劇でお金を稼いで食っていこうとしてるんだろ? プロとしてやろうとしてるんだろ? プロはお金を稼いで初めてプロになるんだから、招待なんかしないでちゃんとお金を払わせた方がいい。それにお金を払った方が俺たちも正当な評価を話せるから」と。

 この言葉に僕は胸を打たれた。この時「プロ」という言葉の重みや真意をきちんと理解できたのだ。それからは招待などせずに正規料金で観劇してもらうようにしている。ただこれが言えるのは僕の周りの演芸や芸人の話で、演劇、特に小劇場界隈だとそうはいかない。確固たる地位などついていなくとも、リスペクトする先輩でないとしても、関係者は招待することが通例となっており、集客出来ない役者などは役者同士で“行って来い”によるギブアンドテイク方式が主流となっていて、お客さんの分母を増やそうとしない。