「理想の家族」に依存しがちな依頼者たち
4時間2万円でレンタル家族を演じる石井氏。明るい人柄とコミュニケーション能力の高さで、依頼者たちからリピート指名されることが多い。だが、理想の父親を演じる石井氏に子どもだけでなく、母親もハマってしまい、依存してしまうことも少なくない。
石井「クライアントであるお母さんから『本当のお父さんになって』とプロポーズされることが、けっこうあります。でも、そこで感情に流されると、仕事に悪影響が出てしまうので、すべてお断りしています。依存傾向のあるクライアントには、利用回数を抑えるように提案しています。レンタル家族は大変気を遣う仕事なので、僕以外のスタッフには5家庭を上限にしていますし、スタッフの心理的なケアにも充分に配慮しています」
ここまで一気にしゃべり続けた石井氏だが、ひと息置いてから、こうも語った。
石井「仕事を終えて自宅に戻り、ひとりで過ごしていると、いつも誰かを演じ続けて、気を抜くことができずにいる自分がいることにふと気づきます。きっと、疲れているときなんでしょうね。レンタル父親の仕事を終えて、依頼先から帰る際の『なんで帰るの?』という子どもの声は、これまで何度も聞いていますが、やはり心に残ってしまいます」
石井氏が経営する「ファミリーロマンス」という社名は、心理学者のジークムント・フロイトが提唱した精神分析の概念であり、家族がそれぞれが抱える「理想の家族」像を指している。家族代行サービス業が日本でビジネスとして成立しているということは、日本には理想の家族を求めている人たちがそれだけ多いということだろう。理想と現実とのはざまには、底知れぬ深い闇が広がっているように感じられる。
『レンタル×ファミリー』
原作/石井裕一 脚本・監督/阪本武仁
出演/塩谷瞬、川上なな実、白石優愛、でんでん、川面千晶、埜本幸良、鈴木ふみ奈、亀島一徳、石井裕一、野見隆明
配給/Atemo 6月10日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
©2023『レンタル×ファミリー』製作委員会
rentalfamily-movie.com
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