阪本「掴みどころのない石井さんをモデルにした主人公は誰が適任か。『パッチギ!』には桐谷健太さん、高岡蒼佑さん、加瀬亮さんらも出演していましたが、三上役に最適だと思えたのは塩谷さんでした。シングルマザーがどんどんハマってしまう、甘いビジュアルとミステリアスな雰囲気が、主人公役にぴったりでした」
塩谷に出演を打診したところ、すぐに快諾してもらえた。原作者と主演俳優を引き合わせるために食事の席を阪本監督がセッティングしたところ、2人はたちまち意気投合。塩谷は石井氏が経営する会社「ファミリーロマンス」に登録し、レンタル業務を体験した上で本作の撮影に臨んでいる。
阪本「塩谷さんは人間レンタルというサービスにかなり興味があるようです。塩谷さんだけでなく、レンタル家族サービスに代行スタッフとして登録している俳優はけっこういるようです。お受験などの面談で父親代行を急遽頼まなくてはならない状況があることは、僕にも理解できます。しかし、ずっと子どもに本当の父親だと信じ込ませたままでいることには、僕は正直なところ抵抗を感じます。劇中で三上を取材するディレクター役を石井さんに演じてもらったのは、石井さんにレンタル家族というサービスを客観的に見つめ直してほしいという潜在的な気持ちがあったからかもしれません」
日本社会は家族を単位にして、地域社会や血縁社会が成り立ってきたが、家族や社会のあり方は大きく変わってしまった。家事代行や介護と同じように、家族の存在そのものを民間企業に求めることを考える人たちがいるという現実がある。
阪本「レンタル家族だけが選択肢ではないはずという僕個人の考えから、最終エピソードの主人公となる菜々子には、レンタル家族とは異なる新しいコミュニティーを見つける物語にしています。レンタル家族について、僕は全否定も全肯定もしていません。映画をご覧になった方たちに、考えてもらいたいんです」