ドイツの巨匠監督も魅了した「人間レンタル屋」

 阪本武仁監督が「レンタル家族」を提供する会社が実在することを知ったのは、何気なく見ていたテレビのワイドショーがきっかけだった。当時、幼い子どもを育てていた阪本監督は、理想の家族を演じるレンタル家族に興味を持ち、石井氏の著書『人間レンタル屋』を読むことに。さまざまな代行サービスを請け負う石井氏の面白い逸話の数々に魅了されるのと同時に、本の表紙に本人が堂々と姿を見せていることに強い違和感も覚えたそうだ。

阪本「困っている人のために、石井さんが懸命に代行業をしていることは分かったんですが、本の表紙をはじめ、テレビや雑誌にも顔出ししていることが不思議でならなかった。もし、レンタル父親として通っている家庭の子どもが気づいたらどうするんだろうと。自分の神経では考えられない存在だったんです。そのことから逆に興味が高まり、石井さんの会社だけでなく、他の会社への取材も始めました」

 石井氏が経営する「ファミリーロマンス」の他、日本には現在7つの会社がレンタル家族サービスを行なっている。阪本監督が取材した会社の経営者たちはそれぞれ個性的だったが、やはり石井氏の人柄は格別なものがあったようだ。

阪本「レンタル家族を提供する会社は、日本だけのもののようです。中でも石井さんの存在はひときわ個性的で、ドイツの巨匠監督であるヴェルナー・ヘルツォークが石井さんを主演にした映画『Family Romance, LLC.』(19)を撮っているほどです。石井さんは仕事熱心で、頼まれたことは基本的に断らない人ですが、マスメディアに出続けていることを含め、僕には理解できないところも少なくありません。どこか掴みどころのない不思議な人なんです」

 阪本武仁監督が映画界に関わったのは、井筒和幸監督の『パッチギ!』(04)に演出部のボランティアとして参加したのが最初だった。主演の塩谷瞬とはそれ以来の付き合いとなる。